あなたは「防人の詩」を知っていますか。
さだまさしさんの楽曲で、映画の主題歌として用いられており、知っている方も多いと思います。
私は以前、スナックでこの歌を仲の良い先輩に教えていただきました。恥ずかしながら映画を殆ど見ない私はこの曲を知りませんでした。映画でこの曲を知った先輩が私に歌わせたく覚えるように強く勧めてくれた歌です。私はリクエストに答えられるよう音程と歌詞を覚え、何度か披露しました。
しかし、その後、いろいろなところでこの歌に触れるにつけ、その歌の意味するところについて深く考えるようになりました。
そもそも防人とは、かつて外国の襲来から国を守るために守りについた人たちのことで、専業軍人ではなく、遠い土地で生活をしながら任務についた人達です。
その人達が、任務の苦しさや離れ離れになった恋人や家族を思って詠んだ歌が、万葉集にも収められている「防人歌」と呼ばれているものです。
その中の一首から生み出されたのがこの楽曲『防人の詩』です。
海は死にますか、山は死にますか、のリフレインが印象的な曲で、さだまさしさんのきれいな高音で表情豊かに歌いあげられるこの歌は「芸術」と呼ぶにふさわしいものです。
歌詩では序盤、仏教的な生病老死といった人間の普遍的な苦しみについてや、輪廻転生、無常観について歌われていますが、後半ではその中で人が生きる今、そして希望というものにも言及しています。
教えて下さい、答えてください、という祈りのような歌詩、また人間のいのちの一瞬の煌きを信じたいという歌詩には、ヴァイオリニストとして音楽のキャリアをスタートし、数々のクラッシック音楽にも造詣の深いさだまさしさんならではの、聖書的な素養も含まれているのではないかと個人的には感じています。
そしてこの曲が使われた映画は日露戦争を描いた『二百三高地』で、敵地でありながら、祖国の安寧の為にいのちを擲った若者たちの現実、日々の営みの延長としての、勝者も敗者も、ただ悲惨な戦争の悲しさなどが詰まった映画のテーマにも実に沿っていて、人々の記憶に刻み込まれました。
そして現代、YouTubeでナターシャ・グジーさんの歌う『防人の詩』を聞きました。
彼女はウクライナ人で、奇しくも日露戦争で戦ったロシア帝国、その後はソビエト連邦に長く属していた国の方であります
。しかし彼女はこの曲を荘厳なる美しさで感情豊かに歌い上げています。
チェルノブイリ原発事故で故郷を追われた彼女にとってこの歌は望郷の歌であり、大切な故郷を守るための兵士の悲しみに共感するものがあったのかもしれません。
場末のスナックで私がこの歌を歌うとき、そんないろいろな人の気持ちをのせて、少しでもこの歌の持つ意味を伝えることができたなら、そこには儚いかもしれませんが、芸術の、そして文化の香りを漂わせることができるのではないでしょうか。
最後に防人歌についてウィキペディアからの引用です。
『万葉集』における内容のパーセンテージ編集
妻・恋人を思う - 40.2パーセント
母を思う - 24.1パーセント
父を思う - 13.7パーセント
望郷 - 6.8パーセント
悲哀 - 3.4パーセント
忠君 - 3.4パーセント
体制批判 - 3.4パーセント
子を思う - 2.2パーセント
その他 - 2.8パーセント
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。